偽りの仮面 第2話


ブリタニア軍が待ち構えている場所に、黒の騎士団が無謀にも姿を現した。
ナイトメアを積んだトラックの上に立つゼロ。
トラックは3台で、逃げるにも足が付きやすく不便だろう、紅蓮弐式まで後ろに控えている。たった3騎でブリタニア軍相手にどうするつもりなのかは解らないし、大々的なニュースとなり軍が動いていると解っている案件に、テロリストがわざわざ介入する意図も解らない。

「気味が悪いな」

愚かだと笑い飛ばす事さえできない、あまりにも不可解な行動。
ゼロは無駄な事をする男とは思えない。
これも何かの策なのだろうと、コーネリアは警戒した。
もし、ゼロだけが現れたならば、よく似せた偽物、つまり愉快犯が一人増えたと考える事が出来たが、こちらのゼロはトラック3台を引き連れており、その荷台にはグラスゴーを改造したと言う無頼が2騎、そして日本産のKMFといわれている赤いKMFまでが積まれていたのだ。
これだけのものを用意する愉快犯はいないだろう。
となれば、本物か。

「何を考えているかは解らないが、奴の思惑通りにするつもりはない」

わざわざブリタニア軍が待ち構えている場所に、たった3騎のKMFを従えやってきてくれたのだ。これは、ゼロを道化とするチャンスだろう。
ゼロはイレブンだけではなく、他のエリアと敵対国、そして主義者達から支持されているテロリストの首魁。あのように顔を隠し、身元を解らないようにしている相手だと言うのに、その求心力は類を見ない。いや、顔が見えないからこそ、人気が取れているのか・・・何にせよ、厄介なほどのカリスマ性を持っている相手。
ここで道化と化してしまえば、黒の騎士団に続けとテロを行う愚か者たちに、現実というものを見せつける事が出来る。

軍の車両やKMFに囲まれていることに臆すること無く、悠々と目的地へ侵攻したゼロの前に、グロースターが立ちはだかった。

『止まれ。ここより先には行かせん!』

グラストンナイツの2騎に進行を阻まれてしまい、トラックは静かに停止した。
銀行を囲んでいた数騎のグラスゴーもまたすぐさまトラックを囲み、銃口をトラックの上に立つゼロと、運転手へむけた。
これでもう、逃げ出すことさえできない。
こうなる事は明白だったのに、その間もゼロは悠然とした態度でそこに立っていた。

『ゼロ、何用で来た。まさかあのテロリストたちを救いに来たとは言わないよな?』

コーネリアは、何か必ず仕掛けがあるはずだと警戒しながら言葉を紡いだ。

『おかしなことを聞く。我々が救い出すべきは力を持たぬ弱者のみ。あの愚か者たちの手から、コーネリア皇女殿下、貴方の手から弱者を救うために来た』
『私の手から、救うだと?』

相変わらずのオーバーアクション。大袈裟に右手を手を掲げながら放たれた言葉に、コーネリアは不愉快気に眉をよせた。

『そう、貴方の手から。ブリタニアがこれから行うであろう、殺戮から』
『ほう・・・?私たちが、殺戮を行うと言うのか?』

この男に喋らせるのは愚策だと解っている。だが、あまりにも不可解な行動故、その理由を知りたくなったのだ。
油断するつもりはないが、この戦、勝ち以外の結末は存在していない。
だから、もう少しだけゼロの目的を探ることにした。

『そう、貴方は今から一方的な殺戮を行う。この銀行に立てこもったテロリストを捕縛あるいは処刑するために』

確かにその通りだ。
銃火器を持ちこんだテロリストに掛ける情けなど無い。
出来る事なら捕縛し、持っている情報の全てを引き出したいところだが、状況によっては全員その場で射殺される。
ブリタニアが収めるこの国で、テロ活動を行ったのだから当然の結果だ。

『だが、貴方のやり方ではテロリストだけではなく、あの場にいる人質も全員、命を落とすだろう』

そこまでいわれて、コーネリアはゼロが何を言いたいのか解った。

『そう、貴方は人質を見捨て、テロリストとともに殺す作戦しか行えない!なぜなら、貴方はブリタニアの皇族だからだ!テロリストの人質になった弱者を救う事などしはしない!だが私なら人質を救って見せる!』

まるで舞台役者のような立ち振る舞いで演説を始めたゼロは、ブリタニア軍のやり方を否定した。

『愚かなり、ゼロ。相手は武装したテロリストだ。こちらが動けば人質が殺される事は明白。運が良ければ何人かは生き残るだろう。なにより、この程度のテロで我がブリタニアが迷い、躊躇えば、この愚か者たちに続こうとする者も出てくるだろう。我がブリタニアをなめる愚か者たちを増やさないためにも、我々はこのまま進むだけだ』

さも当然のように言い捨てたコーネリアに、ゼロは肩を震わせ、笑った。ククククク、フハハハハハハハハと、相手の神経を逆なでするように、大きな声で。

『成程、ブリタニア皇族にとっては、国民はしょせん奴隷。踏む潰した所で心は痛みませんか』

明らかな挑発にコーネリアが眉を寄せた時、ギルフォードが割って入った。

『姫様、今の会話をゼロが』
『・・・成程、そう言う手を使うか。私はまんまと乗せられた訳か』

自分たちの考えを国民が知れば反感を買うことぐらい、いくらコーネリアでも知っている。今の会話をゼロが外部に・・・ネットワークに流していたならば、国民はコーネリアに、ブリタニア皇族に、皇帝に不信感を抱くだろう・・・ゼロはそう考えているのだ。
だが、甘いな。とコーネリアは目を細めた。

反感は買うだろうが、これを理由に国民が決起し、皇族に反旗を翻すことなどありはしない。

弱者を捨て、目的を果たすなど当たり前のこと。
だから今更それを外部に漏らした所で何が変わる。
ブリタニアの皇族が、国民の顔色を見て媚び諂う筈がないのだ。

弱肉強食を国是とし
平等を悪という
欲しいならば戦い奪え
そう国民に対し演説する皇帝が支配している国。
それが神聖ブリタニア帝国なのだから。

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